共済会顧問弁護士に聞く
●歯科領域でのトラブル増加傾向を どのように見ているか?
国民生活センターの統計によれば(右下図)、2012年度 の歯科に関する相談件数は3,194件 で、2004年度(1,231件) の2倍以上となっていて、その伸び率は医療分野全体の伸び率よりも高くなっています。 昨今、歯科医院の経営を取り巻く環境は厳しさを増しており、近医との差別化を図ろうとして自分の技術以上の治療を行いリカバリーができなくなるようなケースも散見されます。 治療技術の未熟さや不注意から生ずる医療事故だけでなく、患者とのコミュニケーションの行き違いがトラブルに発展するケースも増えているように感じます。患者サイドから 見ると、インターネット上に溢れる様々な情報を事前に収集して治療に臨むために治療に対する期待値が高まりやすく、そのため治療の出来映えに対するクレームが発生しやすくなっているという面もあるでしょう。加えて、消費生活センターや弁護士等へのアクセスも容易になっているという社会環境の変化も見逃せない要素だと思います。
インプラント治療で言えば、①インプラント埋入時の神経損傷、②インプラント体の動揺や脱落、③インプラント周囲炎などを巡るトラブルが多いようです。
●歯科医療でのトラブルにはどのような特徴があるか?
歯科領域の紛争の特徴として、「説明義務違反」が争われることが非常に多いということが挙げられます。
これは、歯科では治療方法の選択肢が多様であることや、修復物の色などが顔の外貌に影響することなど、患者の自己決定に関する要素が強く介在するためです。内容別相談件数(右下図)を見ても、「接客対応」や「契約・解約」など、治療行為そのものではなくその周辺部分に起因したトラブルもかなりの割合を占めていますので、先生方にはこうした経営者的視点からもトラブル予防策をお考えいただきたいと思います。
●弁護士が身近にいることのメリットとは?
弁護士は「起きてしまったトラブルを解決するための専門家」と思われがちですが、それだけではありません。トラブルを未然に防ぐ「予防法務」の提供によって、より先生方に安心感をもって治療に専念していただけると思います。
また、トラブルが起こりそうな場合や、既に起こってしまった場合でも、その芽が小さいうちから弁護士に相談することで、紛争の拡大を防止できる可能性が高まります。「これ、どうしたらいいんだろう?」と思ったときに気軽に相談できる弁護士が身近にいるのといないのとでは、経営の安心感は大きく違ってくるでしょう。
●患者クレームを未然に防ぐには?
やはりインフォームド・コンセントの充実が要諦でしょうね。限られた時間の中で多くの患者を診なければならない先生方にとって、理屈では分かっていてもなかなか実践が追いつかないという話もよくお聞きします。
しかし、大きなクレーム事案を遡ると、治療初期のインフォームド・コンセントに問題があったという事案が多いというのも事実です。
限られたマンパワーと時間の中でどのようにインフォームド・コンセントを徹底するか、「仕組み」を考えることが大切だと思います。
●クレーム事案や裁判事例から・・・
法律家の立場から申し上げますと、リスクマネジメントのためには、①日頃からの証拠の確保、②トラブル発生時の初期対応、③アフターフォロー、この3つが重要です。 事前に治療方針や治療内容を丁寧に説明しておくことで、紛争のリスクそのものを低減させることができますが、万が一訴訟になった場合にそれを「証拠」として提出できるように備えておかなければなりません。
また、クレーム発生時はとにかく初動が肝心です。初期対応を誤ると紛争が一気に拡大したり長期化したりする危険が高まります。
さらに、クレームの程度や質にもよりますが、真摯な姿勢でのアフターフォローが重要なのは言うまでもありません。